雌雄同体雄性発生シジミの不思議な世界

 

古丸 明(三重大学生物資源学部)

 

 マシジミは雄性発生 マシジミ Corbicula leana は雌雄同体で卵胎生という、特殊な方法により繁殖している事は古くから知られており、自家受精により発生が可能という指摘もされてきた。Okamoto and Arimoto(1986)による核型分析によって、日本産マシジミは三倍体であることが明らかにされた。三倍体生物は通常の発生方法によらず、雌性発生、単為発生等により、繁殖している。演者はマシジミも雌性発生により、発生していると考え、受精卵の減数分裂過程を追跡した。その結果、本種は雌性発生ではなく、卵の染色体をすべて極体として放出し、減数していない三倍体精子のみで発生する雄性発生であることをつきとめた。

 タイワンシジミも雄性発生 マシジミとは別種とされているタイワンシジミ C. fluminea は近年、日本国内にも侵入している。日本国内の二倍体タイワンシジミも雄性発生していることが明らかになった。また、台湾、中国本土には二倍体、三倍体、四倍体が存在し、調べた範囲内では、そのいずれもが雌雄同体で減数していない精子を作っており、雄性発生している可能性が大きい。日本国内のタイワンシジミ二倍体は貝殻形態、色彩や、酵素の遺伝的変異性等マシジミと比べて多型的である。

 ペスト種としての特性 タイワンシジミは分布を拡大する能力に秀でている。北米では「ペスト種」とされており、生態系の破壊、発電所の閉鎖等、の問題が生じた。北米だけではなく、ヨーロッパ、オーストラリア、南米にも分布が広がっている。また、日本国内に侵入したタイワンシジミが淡水域だけではなく河口域で繁殖している例もある。

 種の問題 シジミ類では分類が混乱しており、一説によると数百種が記載されたそうである。貝殻の色彩、形態が多型に富むこと、さらに生息環境によっても貝殻の色彩(殻皮の色)が変化するため、分類の混乱に拍車をかけたようである。この混乱は貝殻の形態色彩以外の情報が不足していたことにも一因があろう。「自家受精、雄性発生種」については「交配の可能性の有無」でもって定義をすることが困難である。種の境界をどこに設定すべきか、さらに祖先型や雄性発生種相互の遺伝的類縁関係等の情報を蓄積した上で「雌雄同体シジミの種概念」について論議していくべきであろう。

 

Komaru, A.: Enigmatic hermaphroditic Corbicula world -Reproduction by androgenesis-