ヒバリガイモドキの捕食者認知と足糸分泌・移動頻度の抑制
石田 惣(福井市自然史博物館)゜・岩崎敬二(奈良大学教養部)

イガイ類は捕食回避のために足糸分泌を操作することが知られている。ムラサキイガイ等ではカニの匂いを感知し、足糸を増強して引きはがしによる捕食を回避する。同様の対捕食者行動がヒバリガイモドキ(Hormomya mutabilis)でもみられるかを、イボイワオオギガニ(Eriphia smithii, 引きはがしをする捕食者)とヤツデヒトデ (Coscinasterias acutispina, 引きはがしをしない捕食者)を用い室内実験で検証した。
大サイズのヒバリガイモドキでは、カニ飼育水下で実験開始初期の付着足糸の本数が対照(通常海水)に比べて少なく、足糸束の放棄回数(すなわち移動頻度)に差はなかった。ヒトデ飼育水下では、付着本数・放棄回数ともに対照と差はなかった。小サイズでは、実験期間を通じてカニ飼育水と対照間で付着本数に差はなかったが、放棄回数がカニ飼育水で少ない傾向にあった。
これらから、ヒバリガイモドキは少なくとも捕食者のカニの存在を水媒物質で認知できるようだ。また、付着強度が捕食回避には関係しないヒトデに対しては足糸分泌を操作しておらず、ヒトデの存在を認知しているとすれば、捕食形態に応じて対捕食者行動をスイッチしているといえる。足糸分泌や移動頻度の抑制は、カニによる捕食の回避に必ずしも有効ではないとも考えられるが、次の可能性が示唆される。1)イガイ床の中ではなく単独の場合は、足糸を増強しても引きはがし回避の効果が弱く、2)足糸分泌のために斧足を出すことは視覚的に捕食者を誘因しやすく、また斧足を捕食される危険も増す。足糸分泌によるイガイ類の対捕食者行動は、従来考えられているほど単純ではなさそうだ。

S. Ishida & K. Iwasaki: Reduced byssal thread production and movement by the intertidal mussel Hormomya mutabilis in response to effluent from predators.