日本産ミズゴマツボ属3種の形態と棲息環境の差異に基づく再検討(新生腹足上目:ミズゴマツボ科)
馬堀望美°1・福田 宏1・桑原康裕2・石橋 猛3
(1岡山大・農・水系保全:2北海道立網走水産試験場:3財団法人化学物質評価研究機構)

Stenothyra Benson,1856 ミズゴマツボ属は,インドから日本の淡水及び汽水域に棲息する微小な巻貝類である。全世界的にこの属の研究は非常に遅れており,日本でも,10以上の種名や亜種名が記載されているが,研究者によって分類は異なっている。今回,日本産ミズゴマツボ科のうちKuroda(1962)が記載したS. japonica ミズゴマツボ,S. j. hokkaidonis  エゾミズゴマツボ,S. thermaecolaオンセンゴマツボの3タクサについて,形態及び棲息環境の比較を行った。その結果,殻(殻形,大きさ,点刻),頭触角の色素斑,後足触角の長さ,陰茎(筋肉の厚さ),雌の外套生殖輸管(sperm duct の巻き方)などに差異が見られた。棲息環境については,ミズゴマツボは良好な状態の水田及び農業用水路で見られる一方,時として諫早湾干拓地のような撹乱された場所でも増殖する例が見られた。オンセンゴマツボは,水温30−36℃の温泉の排水溝や水溜りに見られ,多くは溝の壁面や石にサカマキガイ,カワニナなどとともに付着していた。エゾミズゴマツボは,ヤマトシジミ,カワグチツボなどが産する汽水域に見られた。これらのことから,3タクサは形態と棲息環境の両面において明瞭な差異が認められるため,それぞれ別種とみなすのが妥当である。

Mahori, N., Fukuda, H., Kuwahara, Y. & Ishibaashi, T.: Review of three Japanese stenothyrid species based on their morphology and habitats (Caenogastropoda: Stenothyridae).