沖縄トラフの深海底から採集されたヒザラガイ類歯舌のミネラリゼーション
大越健嗣(石巻専修大理工)゜・藤倉克則(海洋科学技術センター)

目的:2001年および2002年のなつしま/しんかい2000の調査で,沖縄トラフ鳩間海丘(熱水噴出域)と黒島海丘(冷水湧出域)でそれぞれ数個体の小型のヒザラガイを採集した。浅海域のヒザラガイ類の歯舌には鉄が濃集しており,形態や構造,鉄を含めた元素の分布等はヒザラガイの摂餌活動や系統等に関連していることが考えられる。そこで本研究では深海に生息するヒザラガイ類の歯舌の構造とミネラリゼーションについて検討を行った。
方法:歯舌は形態を観察した後,洗浄し,マイラー膜にはりつけ,高エネルギー加速器研究機構,物質構造科学研究所のシンクロトロン放射蛍光X線分析装置を用いて非破壊的に多元素同時分析を行った。大側歯歯冠部の元素マッピングもあわせて行った。
結果:鳩間海丘で採集された個体の大側歯歯冠部は2つに先割れしており,成熟歯列は茶褐色に着色しており鉄が多く,未成熟歯列は半透明でカルシウムが多かった。また浅海域のヒザラガイとは異なり大側歯には銅や亜鉛の濃集も確認された。黒島海丘のヒザラガイはエンセイシロウリガイの死殼に付着していることが初めて確認された。

Kenji Okoshi and Katsunori Fujikura. Biomineralization of radular teeth in deep-sea chitons.