ミヤコドリの外套眼
狩野泰則(国立科学博物館 地学研究部)

 「眼」は方向視が可能な光受容器官と定義されている。軟体動物の眼は頭眼・外套眼・背眼に大別できる。このうち外套眼とは外套膜の端部、殻縁付近に存在する多数の眼を指し、ホタテガイやザルガイ、フネガイなどの二枚貝においてその構造や機能に関する様々な研究が行われてきた。これに対し腹足類ではほとんどの種が一対の頭眼をもち、外套眼の存在はまったく知られていなかったが、ミヤコドリを含む3種のユキスズメ科笠貝(腹足類アマオブネ上目)においてこれを発見したので報告する。ミヤコドリの外套眼は直径20μm内外、ごく少数の受光細胞と色素層をもつ胞眼で、方向視は可能ながら最も単純な眼である。外套触角基部付近の外套上面に位置し、殻縁を360度とりまいて100個以上が分布する。
 現生ユキスズメ科貝類は砂泥に深く埋もれた岩の下などの薄明?暗黒環境に生息する。このため視覚が自然選択における重大な要素であるとは考えにくく、実際一対の頭眼は皮膚下深くに埋もれ退化している。mtDNAの塩基配列に基づき同科の分子系統解析を行った結果、科内分類群における外套眼の有無は生息環境の差に関連するのではなく、系統関係を反映していることがわかった。これは同時に祖先種の古生態を反映しているのかもしれない。

Kano, Y.: Mantle eyes of phenacolepadid limpets.